刑法では,原則として実行に着手しなければ犯罪にはなりません。
実行の着手とは,実行行為を開始することです。
つまり,犯罪を計画しただけで実際に実行に移らなければ犯罪ではありません。
実行の着手をしたが,結果が発生しなかったら未遂罪が成立することになります。
例えば,人を殺害しようとナイフで刺したが,病院に運ばれ一命を取り留めた場合は殺人未遂罪です。
しかし,一口に実行の着手といっても,個別の事例では判断が難しい場合もあります。
例えば,窃盗をしようと空き家に侵入した場合を考えてみます。他人の家に侵入した時点で,住居侵入罪は成立しますが,窃盗罪はまだ成立していません。タンスの中に何か入っているかもしれないと思いタンスを開けた場合はどうでしょうか? 実際に引き出しの中にはなにもなく取らなかった場合を考えると,実行の着手があるのかないのか,明確には決まりません。
また,相手にけん銃を向けただけのときは実行の着手があるのか,引き金に手をかけたときはどうか。
窃盗事件では,物色行為が開始されたときに実行の着手があるとするのが判例の考えのようです。なので上記の例でいうと,タンスの引き出しを開けた時点で物色行為が始まってますので,実行の着手ありです。例え実際に盗む物に手をかけていないとしても窃盗未遂罪になるということです。
過去判例では多数の事件で実行の着手があるのかないのかが争われてきています。今も,どんな事件にも適用される明確なルールがあるわけではありません。
東京ディフェンダー法律事務所 坂根真也