憲法38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されないことを保障しています。実際の刑事裁判でも,裁判長は必ず被告人に対して黙秘権が保障されていることを説明しなければなりません(刑訴訟第291条3項)。また,起訴される前の捜査段階においても,刑事訴訟法198条2項は,取調官は,被疑者に対して自己の意思に反して供述する必要はないことを告げなければならないと定められています。このように,日本では,憲法や法律によって,被疑者・被告人に対して黙秘権が保障されています。しかしながら,実際の取調べや裁判で,黙秘権を行使するケースはそれほど多くはありません。
しかし,近年,特に取調べの段階で,黙秘権を行使するケースが徐々に増えてきており,刑事司法関係者の協議会等の場でも,警察官や検察官から「最近,被疑者が黙秘権を行使する事件が増えている」という声をよく聞くようになりました。
原因の一つとして,取調べの可視化(録音・録画)が拡大しているとことの影響が考えられます。これまで,黙秘権を行使したいと考えても,長時間にわたり密室の中で,取調官から供述を「強要」された結果,不本意に黙秘権の行使を断念したケースがあったことは過去の冤罪事件の存在からも明らかです。取調べの可視化が広がったことによって,従来のような不適正な取調の手法を採りにくくなったことが,黙秘権の保障に繋がっていると考えられます。
法律事務所シリウス 虫本