「人質司法」という言葉を聞く機会が増えています。
日本で発売されている英字新聞でも,Japan’s ‘hostage justice’ systemと翻訳され,海外のメディアでも,日本の「人質司法」(Japan’s ‘hostage justice’ system)が問題であることが報道されています。
しかし,この「人質司法」という言葉は,刑事訴訟法等の教科書に記載されるような法律用語ではありません。
報道でも,「人質司法」という言葉を,誰が,いつ頃から使い始めたのかまでは記載されていません。そもそも,裁判所関係者及び検察関係者は,組織にいる間には,絶対に日本の現状が「人質司法」であることは認めません(ただし,組織を辞めて,弁護士登録し,刑事弁護を担当するようになると,突然「人質司法」が問題だ,などと発言するようになります。)。
「人質司法」は,日本弁護士連合会が,1997年の人権擁護大会の宣言で使用したのが最初のようです。1997年の人権擁護大会では,「刑事司法と憲法再発見」というテーマがとりあげられていますが,その報告書を読むと,次のような記載があります。
「人質司法の打破について-保釈問題を中心に-
保釈率は,地裁で1972年,簡裁で1974年にピークを迎え(地裁で58.4%,簡裁で31.0%)て以降ほぼ一貫して下降線をたどり,1995年には,何と地裁で19.2%,簡裁で10.0%にまで落ち込んでしまった。また1998年~95年の間,被疑者数に占める逮捕者数の割合は約7%,勾留請求率は4.3%増加している。勾留延長請求率は,同期間で7%増加している。身体拘束されたまま起訴された者の割合も約7%増加している。被疑者の身体拘束とその長期化が確実に進行している。
憲法34条,国際人権法は,刑事裁判遂行のうえで被疑者・被告人を拘禁することは例外でなければならないことを規定している。しかし,現状は,上記のとおりである。こうした人質司法とくに保釈の現状をもたらした原因を考え,現状を変えるうえで必要なものは何かを明らかにすることがここでの課題となる。」
1997年以降も保釈許可率は低下し,裁判員裁判の施行を契機として,保釈許可率が20%を超えるようになりました。しかし,ピーク時期の58%にはほど遠いですし,保釈が許可されたといっても,検察官の立証が終わった後にようやく許可される事例も多く,人質司法の現状は変わっていません。
弁護人として,依頼者が捜査機関の人質とならないよう,保釈等の手段を諦めることなくとっていきたいと考えています。
法律事務所シリウス 弁護士 菅 野 亮