警ら車両,いわゆるパトカーには車載映像装置が搭載されていることがあります。いわゆるドライブレコーダーです。
一般的には,警ら車両を運行している際には,警察官はドライブレコーダーを作動させ,映像を記録しています。交通違反や事件の端緒を記録して,証拠として保全するためです。
ドライブレコーダーは客観的な映像ですから,弁護人に有利な証拠なりうる場合もあります。例えば被疑者・被告人の言い分に沿った動作や行動が記録されている場合,警察官の違法捜査の様子が記録されている場合などです。それでは,このような場合に,いつでもドライブレコーダーの映像を裁判に提出できるのでしょうか。
実は,事件当時にドライブレコーダー自体は作動していたとしても,警察官が一旦は記録された映像を消去してしまうことが多々あります。正確には,ドライブレコーダーにより記録された映像は一定の時間は保存されますが,その後どんどん新しい映像が記録されると,古い映像は上書きされていきます。映像を後々保存しておく場合には,別途保存データを作成することができるのですが,その保存データ化をするか否かについては,警察の判断に委ねられているのです。ですから,警察官が不要と判断した多くの映像データは,順に上書きされ,消えてしまっているのです。
弁護人としては,まだドライブレコーダー内に映像が記録されている時期―例えば事件の直後―には,必要であれば同映像を保存データ化しておくよう,警察官に積極的に申し入れる必要があります。また,既に上書保存がされ,映像が消去されてしまった場合には,その判断の適否をきちんと公判で検証する必要があります。ドライブレコーダーは警察の立場や対面を守るための道具ではありません。真実を明らかにするための証拠保全の手段です。
ドライブレコーダーの映像の保存化に関する警察官の判断の是非を評価するには,警察内部での通達などが非常に役立ちます。この通達は非公式なものでは全くなく,当然に弁護人や一般市民が確認できるようにすべきものとも思われますが,検察官ですらこのような通達の開示を頑なに拒否することがあります。徹底的に争う事件では,弁護人にはこのような捜査機関の対応に負けることなく,証拠を開示させる技量が求められます。
東京ディフェンダー法律事務所 赤木竜太郎