新型コロナウィルス感染症は,刑事裁判にも大きく爪痕を残しました。
2020年3月意向,新型コロナウィルス感染症の影響により,次のような影響がありました。
① すでに予定されていた公判期日の取消,延期
② 拘置所等における緊急事態宣言中の一般面会の原則禁止
③ 法廷におけるマスク着用の要請
まず,2020年3月から5月までの間に,公判が予定されていた事件は,新型コロナウィルス感染症予防の観点から期日が取り消され,延期されました。
多数の人数があつまる裁判員裁判だけでなく,裁判官が1人で審理するような事件についてもほとんどの期日が取り消され,数ヶ月後に延期されました。
弁護人としても,保釈中の事件や在宅事件(身体拘束されていない事件)であれば,感染症予防の観点から,裁判の期日が先送りされることもやむを得ないと考えます。
しかし,保釈もされず身体拘束されたままの事件の中には,もし裁判が開かれれば執行猶予付の判決となり,即日釈放されるような事件もあります。そのような事件については,弁護人が公判期日の取り消しに反対することになります。弁護人が反対した場合に,それでも公判期日を取り消すかどうかは,裁判官の判断も分かれますが,残念ながら弁護人が反対しても期日を一方的に取り消し,延期された事件もあると聞いています。
しかし,そのことによって長期化した身体拘束に対する補償はありません(実刑判決の場合は,一定の勾留期間を服役したことと見なすことになりますが,執行猶予の場合,そのような未決通算がないことが一般的です。)。
緊急事態宣言中は,拘置所での一般面会が禁止されました。
警察では,普通に面会できているのに,拘置所のみで一律に家族等との面会を禁止する合理性があるのか疑問です。仕事の関係でどうしても関係者と会いたい,控訴するかどうか家族と相談したい,せめて1ヶ月に1回家族の顔を見たい,そんなことも一律に禁止されました。諸外国でも実施されているオンラインによる面会等を早急に実現する必要があるように感じました。
そして,2020年6月以降,裁判所は,裁判を再開しました。裁判官は,訴訟関係者全員にマスクを付けるよう要望するようになりました。
しかし,裁判員からも,被告人の表情が見えないとその供述の信用性判断がしにくいなどという感想も出たため,弁護人が要望した場合,表情の見えるフェイスガードやマウスガードも許可するということになりました。
また,通訳事件においても,発言者の口元が見えないと通訳しにくいなどという意見がでており,そのような意見がでた場合,やはり,弁護人が用意したフェイスガード等を利用する扱いです。
感染症予防の観点から,法廷において留意すべきことがあることは否定しません。
しかし,他の予防措置もある中で,一律にマスク着用を求める前に,当事者等の意見に耳を傾け,マスクを一律に着用させることにより,失われるものがないか,考えていく必要があるように思われます。
法律事務所シリウス 弁護士 菅 野 亮