警察官は、無実を主張する被疑者を取り調べるとき、決まってこう言います。
「認めたら早く終わる。否認してたらいつまでたっても出られないぞ」
これはもちろん、警察官が被疑者を自白させるための手段です。無実を訴える人からすれば絶望的な言葉です。自分はやっていないからやっていないと主張しているだけなのに、あたかも自分が犯罪を犯したことを前提に、認めるか「否認」するのかを迫られているように感じます。こうした取調はいうまでもなく違法・不当であり、こうした事象が起これば、すぐに弁護人も捜査機関に抗議します。
しかし、より恐ろしいことは、この警察官の発言自体は、全くの嘘偽りとは限らないということです。信じられないことに、わが国の裁判官は、被疑者や被告人が嫌疑を争っていることを理由にして、身体拘束を続けようとします。その結果、上の警察官のセリフのように、認めたら早く終わって釈放されるのに、争っていたらいつまで経っても釈放されないということが現実に起こります。まるで、本人の身柄が人質に取られているようです。無罪推定の原則のあるわが国の法制度において、これほど矛盾に満ちた取扱はありません。捜査機関がそのような立場を取ることは百歩譲って理解できるとして、裁判官もこれに追随することは、「人質司法」との非難を免れないでしょう。
本来は、無罪を主張して争っている人ほど、早く釈放されてしかるべきなのです。このような「人質司法」の現状は、一刻も早く打開されなければならないわが国の悪しき法文化です。
法律事務所創衛 弁護士山本衛