1 性的姿態撮影等処罰法
性的姿態撮影等処罰法の正式な名称は、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」といいます。
性的姿態撮影等処罰法は、令和5年7月13日から施行されています。
2 性的姿態撮影等処罰法が処罰する行為
性的姿態撮影等処罰法の目的は、「性的な姿態を撮影する行為、これにより生成された記録を提供する行為等を処罰するとともに、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収を可能とし、あわせて、押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置をすることによって、性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止する」ことにあります(同法第1条)。
(1)性的姿態とは
性的姿態撮影等処罰法は、性的姿態について次のように規定しています。
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
(2)性的姿態等撮影罪の法定刑
性的姿態撮影等処罰法は、性的姿態等を撮影する行為をした者は、「三年以下の拘禁刑又は三百万円の罰金に処する」と定めています(同法・第2条)。
かつて盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例によって処罰されていましたが、条例と比較して法定刑が重く規定されています。
もっとも、性的姿態等を撮影するすべての行為が処罰されるわけではなく、「正当な理由」があれば処罰の対象外とされています。
法務省のQ&Aによれば、「正当な理由」として、次のようなケースが紹介されています。
○ 医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療行為上のルールに従って撮影する場合などが考えられます。
16歳未満の者に対する撮影行為について「正当な理由」がある場合としては、例えば、
○ 親が、子どもの成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で、水遊びをしている子どもの姿を撮影する場合
○ 地域の行事として開催される子ども相撲の大会において、上半身裸で行われる相撲の取組を撮影する場合
(3)性的映像記録提供等
性的姿態撮影等処罰法は、性的姿態の撮影行為だけでなく、性的映像記録の提供、陳列(第3条)、保管(第4条)、送信(第5条)、記録(第6条)の各行為についても、処罰の対象としています。
3 対象電磁的記録の消去命令
検察官は、性的姿態が撮影された電磁的記録について消去を命じることができます。
4 実務の現状
性的姿態撮影等処罰法だけで起訴された事例で量刑が公刊されたものがないため、量刑傾向がどのような分布になるのかは不明です。
ただし、条例違反が問題となる盗撮事件でも、被害者と示談ができた場合には、不起訴や罰金といった処分になる傾向がありましたので、性的姿態撮影等処罰法においても、事実関係に争いがない事例では、示談等を目指すことになると思われます。
複数の性的姿態等撮影、不同意わいせつ被告事件で起訴された事例において、懲役3年執行猶予5年とされた裁判例(神戸地裁令和6年4月23日判決、求刑3年6月、性的姿態撮影等処罰法第2条)があるので、懲役刑が選択されるケースでも、執行猶予付判決となる場合もあると思われます。
ただし、上記事案は、「不同意わいせつの被害者を含めた被害者7名との間で示談を成立させて、合計400万円の賠償金を支払っていること」が有利に考慮されています。
法律事務所シリウス
弁護士 菅 野 亮