刑事弁護ブログ

2016.09.28 刑事弁護コラム

「執行猶予」と「一部執行猶予」

刑事弁護人の仕事をする中で、緊張する場面のひとつは、やはり判決言渡しの瞬間です。

犯罪が成立することには争いがない事件の場合、依頼者にとって大きな分かれ目となるのは、判決に執行猶予が付くかどうかです。執行猶予付きの判決は、有罪ではありますが、直ちに刑務所に服役しなくて良いという意味で、執行猶予が付されない場合の判決(いわゆる「実刑判決」)と比べて大きなメリットがあります。

執行猶予判決の主文(判決の結論)の言い回しは、例えば、こんな感じです。
「被告人を懲役2年に処する。この判決が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。」
実刑の可能性が高い事件で、弁護人が判決の言渡しを聞くとき、「処する」の後に「この判決が」という言葉が裁判長の口から発せられた瞬間、ふっと安心した気持ちになります。

ところで、平成28年6月から「一部執行猶予」の制度が始まっています。「執行猶予」という言葉が入っているので、この場合も刑務所に行かずにすむのではないか?という誤解をしている人がいますが、実際には違います。この制度の主文は、例えば、
「被告人を懲役2年に処する。その刑の一部である懲役4月の執行を2年間猶予する。」
といった具合になります。
この場合も、まずは刑務所に1年8月の間服役しなければならず、その後、社会内で2年間何事もなく生活していれば、残りの4ヶ月については受刑の必要がなくなるというものです。要するに、あくまでも実刑判決のヴァリエーションのひとつという位置づけです。

一部執行猶予は、まだ始まって間も無い制度ですが、薬物事犯の場合には必要的に保護観察が付されることなど、弁護人にとっては依頼者にとって本当に有利といえるかどうか悩ましい内容を含んでいます。今後の適用状況について見守っていく必要がありそうです。

法律事務所シリウス 弁護士 虫本良和