事案の紹介
被告人は,スーツケース内に隠匿された覚せい剤(約1.2kg)を日本に入国する際に申告しなかったが,税関検査で発見された。被告人は,スーツケースはいとこから借りたものだし,自分は中古自動車の買い付けで来日しただけで,覚せい剤が隠匿されていることを知らなかったと述べた。被告人の言い分は排斥できとして無罪となった事件
弁護活動
国選弁護人として担当した事件です。
被告人は,弁護人が選任される前に,不利な内容を含む供述調書を作成していました。また,捜査機関が作成した証拠によれば,税関検査時に不自然な発言をしたとされていました。
捜査段階から英語の通訳人で事件処理がなされていましたが,何度か接見してみると,被告人は英語をあまり理解していないことが分かりました。
そこで,ナイジェリア大使館を通じて,被告人の母国語であるスワヒリ語の通訳人を探し,法廷通訳人にも弁護人が探したスワヒリ語の通訳人が選任されました。
これまでの英語を介してのやりとりは,被告人自身が理解できない言語で行われていたので信用できないという方向性で争うこととなりました。
被告人は,来日する際,携帯電話で頻繁にやりとりをしている相手が日本にいました。
検察官は,通信記録を,密輸組織関係者とのやりとりであると証拠請求してきました。実際,携帯電話はプリペイド式の携帯電話で誰が実際に使用しているのか不明でした。
被告人は,日本には知人がおらず,かけたとすれば日本にいるビジネスパートナーのA氏だけだというので,弁護人は,A氏に事情を確認したのですが,A氏はそのような携帯電話は使っていないと述べ,被告人の言い分の裏付けとはなりませんでした。
検察官は,A氏を証人として尋問し,A氏は,やはり,プリペイド式携帯を利用して被告人と話をしたことは否定しました。弁護人は,A氏に対し,電話をしたはずの状況等を細かく聞いていきました(例えば,プリペイド電話のやりとりの直前・直後に被告人とA氏の間でビザ関係のやりとりがなされている事実等)。尋問の目的は,A氏がプリペイド式携帯電話を使っていたに違いない事実を浮かび上がらせるものです。
判決では,上記の点について,弁護人の指摘するどおり,A氏はプリペイド式の携帯電話を実際には使っていたが法廷で嘘を述べた可能性があるとして,検察官の立証の柱が意味を持たないことになりました。また,被告人のビジネス目的の来日という話も排斥できないとして無罪判決が言い渡されました。
検察官も控訴せず,確定し,被告人はナイジェリアに帰国することができました。