弁護士が、警察署や拘置所に拘束されている依頼人のもとへ行き、会って話すことを「接見」といいます。
捕まっている依頼人は孤独です。弁護士が来てくれることが何より安心する時間だという依頼人も少なくありません。弁護士は、依頼人に会って話をし、不安を解消し、外との伝言や連絡もできる限り行うように努めます。
ただ、弁護士の接見はその程度のものであってはいけません。弁護士は、依頼人から的確に事情を聴きとり、依頼人の身体拘束解放に向けて準備をしたり、依頼人が取調べに対応するための適切な助言をしなければなりません。
依頼人から適切に事実関係を聴取するためには、技術が必要です。
たとえば、電車内での痴漢で逮捕された事件を例にとってお話ししましょう。
弁護士Aが接見に行きました。
A「女性に触ったという容疑で逮捕されているようだけど、女性には触ってしまったのですか?」
依頼人「・・・触ったといえば触りましたけど」
A「そうですか、それでは相手と示談が必要ですね。お金はいくら用意できますか。」
依頼人「やっぱり示談しなければだめですか・・・」
A「そうですね。30万円くらい準備できますか」
弁護士Bが接見に行きました。
B「電車の中でどんなことがあったんですか」
依頼人「それが、満員電車に乗っていたら、突然手をつかまれてしまって」
B「手をつかまれたことに何か心当たりはありますか」
依頼人「かなり混んでいて、自分の手が女性の体に触っていたと思うんです。でも、決してわざと触っていたのではありません」
B「それでは疑いを晴らせるよう、取調べにどう対応するかについて説明しますね・・・・」
A弁護士とB弁護士には、接見で依頼人から事情聴取をする能力に差がありました。同じ「触った」という認識でも、全く違う話になってしまいました。本当は依頼人は、わざと触っていないという主張だったのに、A弁護士の質問の仕方が悪く、しかも答えを早合点して、示談の話を始めてしまったのです。
接見の肝は、当事者から事実関係をどれだけ正確に、具体的に聞けるかどうかです。接見はすべての弁護活動の基礎となるものです。刑事弁護人として、接見技術は必要不可欠なものです。
東京ディフェンダー法律事務所 山本衛