交通事故事件において,事故態様が争いになる場合には,「工学鑑定」というのものが実施されることが多くあります。
「工学鑑定」とは,事故車両の損傷状況や事故現場場付近の路面に残された痕跡等から,事故発生時の車両の速度や衝突角度などを算出する鑑定手法です。交通事故が起きるのは一瞬のことであり,当事者の記憶だけでは事故状況を正確に再現することは困難であることから,このような「工学鑑定」が交通事故事件の刑事裁判で重要な証拠となることがあります。
ただし,「工学鑑定」の正確性や信用性については,注意が必要です。「工学鑑定」では,解析の対象となる事象が複雑であり,基礎となるデータ(衝突実験の結果)に幅がある場合もあるため,一義的に明確な結論が導かれるとは限りません。鑑定を行う人物によって,結論が異なることもあり得ます。
そのため,交通事故の刑事裁判において,「工学鑑定」が重要な証拠となっているケースでは,それが本当に信用のできる証拠であるのか注意する必要があります。
疑問を感じた場合には,弁護士に相談することをお勧めします。
法律事務所シリウス 弁護士 中井淳一