刑事弁護ブログ

2020.02.12 刑事弁護コラム

取調べ状況の録音・録画が法制化されて何が変わりますか

 裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件については,原則として,取調べ状況について録音・録画することが法律で義務づけられました(2016年に刑事訴訟法が改正され,改正法301条の2が,2019年6月から施行されます。例外的に録音・録画義務がない事件もあります。)。

 録音・録画が義務づけられる事件については,検察官が捜査段階で作成した供述調書を証拠調べ請求し,弁護人が供述調書の任意性を争う意見を述べた時は,検察官は,取調べ状況の録音・録画記録媒体を証拠請求しなければなりません。取調べ状況の録音・録画記録媒体がないときは,裁判所は,供述調書を証拠とすることはできません。

 裁判員裁判対象事件や検察独自捜査事件は,全事件の数パーセントの割合に過ぎず,上記の法改正が直接事件に影響を与えることは少ないかも知れません。

 しかし,検察官や警察官は,裁判員裁判対象事件以外でも,取調べ状況の録音・録画を行うようになりました(得に,検察庁では,勾留している事件の取調べについてはかなり多くの事件で,取調べ状況の録音・録画をしています。)。
 取調べ状況の録音・録画が捜査実務に与えたインパクトは少なくありません。

 取調べ状況の録音・録画がされていない時代は,捜査官が,被疑者に暴力をふるったり,連日,長時間にわたり大声で怒鳴りつけるということも普通にありました。
 それは戦前の話ではなく,せいぜい10年前まで普通にあった,取調べの風景です。
 今も,被疑者の人格を否定したり,否定していることをもって反省していないから刑を重くするなどの捨て台詞をいってくる捜査官もいます。
 ただ,さすがに取調べ状況の録音・録画がされている事件では,被疑者を殴りつけたり,乱暴な言葉で精神的に追い込むような取調べは減っています。

 違法・不当な取調べが行われないよう,すべての事件で,取調べ状況の録音・録画がなされるべきです。

 弁護人は,取調べ状況の録音・録画が義務化されていない事件についても,違法・不当な取調べがあれば,直ちにそのような取調べをやめるよう抗議しますし,法律上義務化されていない取調べ状況の録音・録画をするよう求める弁護活動を行っています。

法律事務所シリウス 弁護士 菅 野  亮