刑事事件の証拠の中心は,証拠書類です。供述調書や捜査官が作った報告書など,多数の書類が,どの事件でも作成されます。会社が関係している事件や,多数の事件関係者がいる事件などでは,その量は膨大なものになります。
多数の供述調書が請求されているケースであっても,基本的には,調書に同意せず,証人尋問をすることが重要です。供述調書や報告書は,捜査機関の見方を反映するものにならざるを得ません。弁護人に有利な細かな情報がそぎ落とされていることも多々あります。ただ,弁護人の中には,あまりに多数の証人を呼ぶことを嫌い,多くの証拠書類の取調べについて,同意してしまうケースもあるようです。事案によりけりですが,そのような判断をした場合,実際には依頼者にとって不利に働き得る供述が,調書などに含まれているにもかかわらず,それが漫然と裁判所に伝わり,結果として裁判所の判断がゆがめられるという事態も起こり得ます。
争いのない点についても,捜査機関の調書に漫然と同意するのではなく,真に争いのない部分のみからなる合意書面(検察官と弁護人が内容について相互にすり合わせて作成する書面)が取調べられるのであれば,このような事態は回避できます。裁判所にとっても,争いのない点については,当事者双方が整理しコンパクトにまとめた合意書面を取調べるだけで済みますので,その分の労力や時間を,真に争いのある点についての尋問や証拠調べに割くことができます。
このような証拠調べの在り方は,裁判員裁判では,捜査機関が「統合捜査報告書」というまとめの書類を作成するという形で,一部実現されています。しかし,裁判員裁判のみに限定する合理的な理由はありません。実際に裁判官のみの裁判でも,合意書面が作成される事案は,少しずつですが増えてきています。検察庁の事務的負担を軽減するために弁護人も積極的に証拠の整理や書面の作成に協力して,この方向性を推し進めるべきであると考えます。そのためには,弁護人が,真に争いのない事実はどこであるか,どの点について尋問の必要があるかを見極め,検察官との交渉を的確に行う必要があります。
東京ディフェンダー法律事務所 赤木竜太郎