刑事裁判の被告人として起訴されてしまった人が,判決前に釈放される刑事手続の制度として「保釈」というものがあることは,ご存知の方も多いと思います。著名な事件や芸能人が被告人となったような事件では,「○○万円で保釈が許可された」などといって,保釈保証金(保釈金)の金額が報道されることも珍しくありません。保釈金を立て替えてくれる業者等もありますが,事案や保釈金の額によっては一定の自己資金の用意を求められることもありますし,手数料等の負担もかかります。保釈が認められるためには,相応の経済的な負担を覚悟しなければならないという実態があります。「お金がない」という理由で保釈が叶わないという人が多くいることは事実です。
この点,刑事訴訟法は,保釈以外にも,起訴後の釈放を認めなければならない場合を定めています。具体的には,「勾留の理由又は勾留の必要性がなくなったとき」(刑訴法87条)或いは「勾留による拘禁が不当に長くなったとき」(同91条)には,裁判所は勾留を取り消さなければならないと規程されているのです。これは「勾留取消」という制度です。勾留取消は,保釈保証金のように金銭の納付等は条件とされませんので,本来は,お金がない人であっても,釈放されるケースがもっと多くあって然るべきなのです。しかし,実際には,この勾留取消による釈放は,ほとんど認められていません。とりわけ刑訴法91条による勾留取消が実際になされるケースはほぼ皆無であるといってよく,法律が「死文化」していると言っても過言ではありません。存在する法律を適正に用いて,経済的に余力がない被告人に対して,勾留取消の制度がもっと柔軟に適用されるべきであると考えます。
法律事務所シリウス 虫本