刑事弁護ブログ

2021.08.31 刑事弁護コラム

訴訟能力に伴う控訴棄却

訴訟能力とは,刑事裁判において,事故の置かれた立場を理解し,適切に防御権を行使しできる能力です。
 刑事訴訟法では,次の様に定められています。
 
 第314条第1項 
 被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる
 
 例えば犯行時は問題がなかったが,その後認知症が悪化し,裁判を理解できない状態にまで悪化した,とか,事件後交通事故などにより脳に障害を負った,などのケースがあります。
なお,犯行時も重い精神障がいなどがあり,心神喪失という場合には,責任能力が問題になります(責任能力と訴訟能力の両方が問題になることも珍しくありません)。

 最高裁は,「被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後,訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合,裁判所は,刑訴法338条4号に準じて,判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である(平成29年12月19日決定)」と判断しました。

 病気に回復の見込みがなければ,公判を停止していても,不安定な立場がずっと継続することになり,被告人や関係者にとっても,社会にとってもよくない,ということから,裁判を終了させることができる,としたものです。
 もちろん,回復の見込みがないかは慎重に判断されなければならず,医師による鑑定が再度行われることが通常です。

東京ディフェンダー法律事務所 坂根真也