弁護士でも,依頼者の言い分を聞いて「そんな話信じられない」と切り捨てるタイプもいます。「反省してない」などと怒りだす弁護士も見たことがあります。おそらく刑事弁護には向いていないタイプです。
もちろん依頼者が嘘をついているケースもあり,すべて信じればよい,という話ではありませんし,不合理だと思われる供述をすることにより,不利な事実認定や量刑判断がされてしまうリスクもあります。弁護人は,様々な要素を考慮し,依頼者と協議した上で,依頼者が述べる一見不合理に思われる供述を法廷でするかどうかの選択をすることになります。
大事なことは,常に依頼者の話を前提に,どうすれば,一見不合理に思われる供述を事実認定者に伝えていくか,ということです。言い換えれば,一見不合理に思われる要素を冷静に分析し,他の事実,あるいは置かれた状況等から,その点の不合理さが払拭できる可能性を常に考えていく必要があります。
殺人事件で,依頼者が,大量の刃物を準備して被害者のところに行ったものの,「話し合いに行っただけで,刃物を使うつもりはなかった」と述べている事件がありました。
もちろん,刃物類を大量に持って話し合いに行くことは不合理です。普通に考えれば,事実認定者は,そのような話を信じてくれず,むしろ依頼者が嘘をついているとして,重い量刑になることすら想定されました。
しかし,この事件の判決では,依頼者は,大量の凶器をもって,話し合いに行ったと認定されました。
まず,依頼者に何度も面会し,この話をかなり細かく聞きました。
そうすると次のような事情が浮かび上がりました。
① 被告人があまり気の強い性格ではないこと
② 精神疾患があったこと
③ 家族とのトラブルで,思い詰め,視野狭窄の状況であったこと
④ 被告人が話し合いの相手(被害者)から殴られたことがあったこと
⑤ 話し合いに行ったらなんとかなると思いこんでしまったこと
⑥ 凶器は話し合いがうまくいかない場合に見せるために購入したこと
このような話を法廷で丁寧に被告人から語ってもらった結果,判決では,上記のとおり,話し合いにいったものと認定され,計画的な殺人であったことは否定されました。
一見不合理であったとしても,そのときの依頼者の置かれた状況等にてらせば,理解されるストーリーになることを常に意識して,依頼者の話を真摯に聞くことが大事な出発点です。
法律事務所シリウス 弁護士 菅 野 亮