刑事弁護ブログ

2022.12.19 刑事弁護コラム

相続登記申請義務と科料の制裁

2021年4月,国会で,所有者不明土地問題の解消に向けて,民法等の一部を改正する法律及び相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律案が可決され,成立しました。民法,不動産登記法,非訟事件手続法,家事事件手続法が改正されるなど,実務に大きな影響を与える法改正となっています。

とはいえ,これらの法改正は,刑法や刑事訴訟法の改正と異なり,直接,刑事事件に関する法改正ではありません。なぜ,このコラムでとりあげることにしたかというと,相続登記の申請義務が定められ,それに違反した場合に科料の制裁を受けることになり,その意味で,相続という誰にでも関係しうることが,刑罰と関連してくることになったからです。

【不動産登記法164条1項】
「登記申請義務を課された者が正当な理由がないのにその申請を行ったときは,10万円以下の科料に処せられる」

登記申請義務は,相続開始の局面と,遺産分割された局面と,2段階で発生する仕組みになっています。具体的には,不動産の登記名義人について相続開始した場合,相続によりその不動産の所有権を取得した者は,①遺産分割の結果を踏まえた終局的な相続登記,②遺産分割を経る前の遺産共有状態を表す暫定的な法定相続分に基づく共同相続登記,③今回の法改正で創設された相続人申告登記のいずれかの申請義務を負うことになります。

正当な理由があれば,科料の制裁は発動されませんが,運用面においても慎重な取り扱いが予定されています(具体的には,登記官が登記申請義務違反の事実を把握した場合,あらかじめ相続人に対して登記申請をするよう催告し,それでもなお登記申請義務者が理由なく登記申請をしないときに限って裁判所に科料通知を行うこととされています。)。

正当な理由は,通達等で明確化されることも予定されていますが,法制審議会の議論では,次のようなケースで,「正当な理由」があるとされています。
① 数次相続が発生して相続人が極めて多数であることにより,戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に時間を要する場合,②遺言の有効性や遺産の範囲が争われる訴訟が継続している場合,③登記申請義務者に重病等の事情があった場合,④登記簿は存在しているものの,公図が現況と異なるため現地をおよそ確認することができない場合など(部会資料19・12頁参照)。

法律事務所シリウス
弁護士 菅 野  亮