私たちが弁護の依頼を受ける方の中には、何らかの障害を有する人もいます。ただ、弁護士は、司法試験の受験勉強やその後の司法修習等を通じて、必ずしも精神病に関する医学的知識や、精神保健福祉に関する知識などを学んでいる訳ではありません。
ですから、刑事弁護人として活動していくためには、実務についてから、関係する文献・論文を読んだり、勉強会や研修に参加するなどして、これらの知識を習得していく必要があります。さらに、実際に障害のある依頼者の弁護活動や裁判等を多数担当する中で、依頼者やご家族の話を聞いたり、専門家の鑑定書の分析や尋問等を実施していくことを通じて、精神障害や知的障害等についての見識を深め、また、これらを日々アップデートしていくことになります。
そのような経験を重ねることで、統合失調症、うつ病等の比較的症例の多い精神障害や、発達障害や知的障害などの大まかな特徴を把握し、仮に依頼者から直接確認することができなくても、何らかの障害があるのではないかと気付くことができるようになります。あくまで弁護士は障害の専門家ではありませんので、安易に特定の障害があると決めつけることはできませんし、仮に障害があったとしてもどのように事件に影響したのかという点はまさに専門家でなければ正確に判断することはできませんので、弁護人としても注意が必要です。
その上で、警察官・検察官さらには裁判官も、障害の専門家ではないことから、障害の存在が見過ごされて、不当に誘導的な取調べや尋問が行われたり、障害の特性を無視した間違った動機が認定されてしまうという危険性は十分に存在します。
そのような危険を防ぐためにも、弁護人が、依頼者の障害に気付くことは極めて重要なことであると考えます。
法律事務所シリウス
弁護士 虫本良和