刑事事件の多くは量刑事件ですが,弁護士会に大規模な量刑データベースがないこともあって,これまで量刑判断の在り方について,限られた実務家(得に裁判官)の論考が広く参考にされていました(例えば,原田國男著『量刑判断の実際』〔立花書房〕,大阪刑事実務研究会編『量刑実務体系』〔判例タイムズ社〕)。
実際の判決文をみても,かつては,被告人に不利な事情と有利な事情を羅列して,「以上諸般の事情を総合考慮すると,懲役●年が相当」などと記載されており,どの量刑因子がどの程度,宣告刑を決めるインパクトがあったのか,判決文からは分かりにくいものでした。
ところが,裁判員裁判が始まり,裁判員と裁判官が量刑に関する評議を行うために,量刑評議の在り方が議論され(司法研修所編『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』『裁判員裁判と裁判官-裁判員との実質的な協働の実現をめざして-』法曹会,遠藤邦彦「殺人事案における量刑事情の整理等に関する実践的視点とその留意点」等),量刑理論の議論が活発化しました。
裁判官だけでなく,刑法学者の優れた論考も増えています(樋口亮介「不遇な生育歴と責任非難」〔慶應法学第40号〕,小池信太郎「性犯罪の量刑」法学セミナー)。
裁判員裁判の判決文の記載も,総合考慮型ではなく,例えば,次のように犯情を確定させた上で,当該社会的類型の量刑傾向や当該事件の相対的位置付けを検討しているものも増えています(以下は,担当した殺人事件の実際の判決文から抜粋しました。)。
「本件と同種の事案,すなわち,殺人の単独犯1件で,『刃物類又は鈍器類』の凶器を使用し,『突発的だが強固な殺意』が認められる事案の量刑傾向に照らすと,犯行の態様が執拗で残虐である一方で,犯行に計画性は認められず,犯行そのものへの影響は小さいが,犯行に至る経緯においては被告人の精神障害が影響し,被告人のために幾許かは酌むべき事情があるといった特徴を有する本件は,その分布の中で中程度からやや重い部類に位置付けられる事案といえる。」
こうした論考などを読み,実際の裁判例を参考にしながら,量刑事件における説得的な主張・立証を考えています。裁判員裁判であれば,裁判所の量刑データベースが使えますので,検索条件などを変えながら,想定される社会的類型や担当した事件の相対的位置付けを検討し,量刑事件における弁護方針を検討しています。得に,裁判員裁判では,「これまでの相場では●年なので,今回も●年ぐらいで。」あるいは「寛大な判決を。」などと主張したとしても,全く理論的でもないし,共感されないと思います。
実務家として,常に理論も意識しつつ事件処理に取り組みたいと考えています。
法律事務所シリウス
弁護士 菅 野 亮