刑事弁護ブログ

2024.12.23 刑事弁護コラム

公判前整理手続の長期化を解決する唯一の方法

裁判員裁判が行われる際には、必ず公判前整理手続を行う必要があります。
裁判員裁判対象事件ではなくても、当事者の請求等により公判前整理手続に付されることがあります。
裁判自体は公開の法廷で行われますが、公判前整理手続は、基本的に非公開で行われることから、報道関係者も一般市民も、あるいは被害者本人も、そこでどのようなことが行われ、何が決まっていっているのかが見えづらく、また、公判が開かれるまでに多大な時間を要し、証人の記憶が減退したりするなど弊害が少なくない、と指摘されることがあります。

公判前整理手続が迅速に行われることそれ自体は、裁判官、検察官、弁護人いずれも求めていることですが、現状長期化していることには原因があります。
長期化の要因には、様々ありますが、最も大きなものが証拠開示です。

日本の刑事手続では、警察官、検察官が捜査して収集した証拠は、自動的には弁護側に開示されません。
検察官は,自らが立証に必要だと考える証拠のみをまず「請求証拠」(裁判所に取調べを求める証拠)という形で、弁護人に開示します。
しかし、請求証拠は警察、検察が集めた証拠のほんの一部にすぎません(事件によりますが10分の1、100分の1くらいであることもあります)。
一部しか開示されたなかった弁護人は、検察官の手元には、弁護側に有利な、あるいは検察官が提出する証拠の信用性を検討するために必要な証拠があるかもしれませんので、それらの開示請求を行います。公判前整理手続では、一定の要件をもとに証拠開示請求権が認められています。
開示請求を受けた検察官は、証拠開示請求が法律上の要件に該当するか等を検討し、証拠を開示します。
その開示を受けて弁護側がさらに検討した上で、主張(認めるか争うか等)の方針を決め、それを公判前整理手続で明らかにします。その後争点と証拠が整理されて公判審理のスケジュールが策定される、と言う流れになります。

このように書くと長期化しないように思えるかもしれませんが、この証拠開示のやりとりに事件によって多大な時間を要するのです。
なぜなら、① 弁護人はまずどのような証拠がまだあるかを考え、それを特定して開示請求する(どのような内容の証拠があるか、弁護人には明確でない場合も珍しくありまん)、②開示請求を受けた検察官は、膨大な記録の中から該当しうる証拠を探しだし、さらに開示すべきかどうか判断します、③仮に検察官が開示しないという判断になった場合、検察官の判断が誤りの可能性があるので、弁護人は裁判官に開示を命令するよう求めることができます、④ 開示された場合でも、新たに開示された証拠から更に他の開示が必要となる場合が出てくる、と言ったように、全ての段階で時間を要することになり、全体としてみると多大な時間が経過するというわけなのです。(実際の事件でも証拠開示のやりとりだけで1年以上かかったというケースもあります)

しかし、証拠開示は適正な裁判を受ける上で絶対に欠かすことはできません。58年後に再審無罪となった袴田事件は、再審請求中に開示された証拠が無罪の決め手になったのです。

従って解決する方法はたった一つです。起訴と同時に全ての証拠を自動的に弁護人に開示する、という仕組みにすればいいだけなのです。
本来証拠というのは税金によって収集された国民のものであって、検察官の個人的な所有物ではありません。適正迅速な裁判の実現のために、証拠の全面開示は何一つ弊害はないのです。
公判前整理手続を導入するとき、それまでの証拠開示と比べて段違いの証拠開示が認められることになり、証拠あさりであるとか争点が拡大するという理由で反対する声がありました。しかし、実際に導入されてみると、裁判員裁判では、裁判官だけでなく検察官、弁護人も裁判員にわかりやすい審理となることに配慮し、それまでの刑事裁判のようにとりあえず証拠を出す、なんでも争点にするなどという活動をしているケースはほとんどないでしょう。
上記の反対は杞憂に終わったのです。
これは全面証拠開示になっても、メリットだけでデメリットは何もないことを示しています。
私の個人的な感覚ですが、起訴と同時に証拠が全面開示されれば、一部の複雑重大な事件を除き、ほとんどの裁判員裁判は半年以内に実施できると思います。

東京ディフェンダー法律事務所 坂根真也