現在の刑事訴訟法は、裁判員裁判対象事件や検察官の独自捜査事件など、一部の事件については、取調べの状況を録音・録画することを義務化しています。しかし、義務化の対象となる事件は、刑事裁判全体の3%にも満たないため、大多数の事件では、取調室の中でどのようなやりとりが行われていたのかを客観的・事後的に検証することが難しいというのが現状です。
そのため、取調べを受ける場合に、取調官からどのような質問をされたのか或いは自分がどういう供述をしたのかということを、被疑者自身が、ノートやペン等を手元に置いてメモを取ることは、極めて有益な防御方法となり得ます。
この点について、2024年(令和6年)3月13日に開催された国会(衆議院法務委員会)において、当時の小泉龍司法務大臣が、捜査機関や留置施設において、任意の取調べ及び逮捕後の取調べのいずれについても、被疑者がメモを取ることを禁止する法的根拠は存在せず、また、メモ取りを強制的に止めることはできないことを明言する答弁を行っています。
国会での、具体的なやりとりは、以下のとおりです。
・国会会議録検索システムURL
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121305206X00220240313¤t=7
(立件民主党寺田学議員の質問への答弁)
○小泉国務大臣 刑訴法上は、任意の取調べや逮捕後の取調べにおいてメモを取ることは禁止されておりません。禁止する規定はございません。
(立憲民主党米山隆一議員の質問への答弁)
○松下裕子(法務省刑事局長)政府参考人 お答えいたします。
取調べは、供述の任意性や信用性が損なわれないように、もちろん、取調べをすること自体、法律で認められていることでございまして、法令の範囲内で実施しているものと承知をしております。
そして、先ほども申し上げたように、メモを取らないでくださいというのはお願いでございます。ですので、法的な強制力のある禁止ではないというところも御理解いただきたいと思います。
その上で、こういう必要があるので取らないでくださいということを申し上げて、それがあくまでも受け入れられない場合にどうするのかというところについては、法律上の根拠があってしていることではないというところで、先ほど申し上げた任意性であるとか信用性であるとか、あるいは取調べの中で出てくるほかの方々のプライバシー、あるいは捜査の秘密、そういったこととの兼ね合いで、じゃ、メモをどうするのかというところを個別に判断するということでございまして、大臣が答弁されたのもその趣旨でおっしゃっているものと理解しております。
○米山委員 いや、その趣旨、今食い違っていますよ、言っておきますけれども。全く食い違っています。刑事局長はさすが御存じなんだと思うんですけれども。
まず、そもそも、刑事訴訟法第一条は、「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」ですので、調べるためなら何でもいいなんて言っていないです。
しかも、刑事局長もおっしゃられたように、あくまで任意です。あくまで任意のお願いしかできないので、嫌です、ひたすら私はメモします、それによって検事さんの何か心証が悪くなるとかそういうことがあったって、それは仕方ありません、それは全責任を私が負いますよ、でも、法令上、何も禁止されていないんですから、それは私はひたすらメモしますよと言ったら、それは禁じられないということでいいですね。
○小泉国務大臣 それは、御本人の意思を通されるということであれば、強制的には止められません。
○米山委員 そうだと思います。
これは国会での質疑ですから非常に重要です。これは、要するにこれから、私も弁護士ですので弁護士会にも御報告させていただきますので、今後ひたすら、やはりメモは禁じられないです、ということで、よろしくお願いいたします。しかも、一部の人にメモを許しているんだから、許している以上、ほかの人に何か任意、恣意的に禁じるなんて、それはむちゃでしょう、ということで、メモは禁じられないということを確認できて、それは大変よかったと思います。
法律事務所シリウス 弁護士虫本良和