弁護事件例

2020.02.27 【殺人】殺人未遂

殺人未遂被疑事件で,勾留決定に対する準抗告が認容された事案

準抗告
捜査弁護
釈放

事案の紹介

殺人未遂の疑いをかけられた事案で,裁判所が被疑者の勾留を決定したところ,それを準抗告によって争い,被疑者が釈放された事案。



弁護活動

夫婦が自宅で口論をし,お互いが激高する中で,妻が台所の包丁を持ち出し,服の上から軽く夫の身体をつついたという事案です。夫の身体には何の傷も残らず,勿論けがもしませんでした。もちろん妻には,夫を殺すつもりまではありませんでした。激高していた夫は,警察に通報しましたが,自宅を訪れた警察は,妻を逮捕してしまいました。被疑者となった妻は,殺人未遂の疑いをかけられ,検察官は勾留を請求し,裁判官も勾留を決定しました。

妻の親族から依頼を受け,さっそく夫と接触しました。夫からは,まさかこんな大事になるとは思っていなかった,包丁はむけられて身体にあたったものの,さされたことはないしケガもしていないとの供述を得ました。そして,妻を早く釈放してもらうためにできる限りの協力をしたいとのことでしたので,釈放された後もしばらくは別居し,妻と接触しないことを誓約してもらいました。一方,被疑者である妻についても,夫としばらく別居して実家に戻り,夫と連絡を取り合わないことを約束してもらいました。夫の供述を詳細な調書にまとめ,夫と妻が完全に別居する環境を整えた上で,裁判所に準抗告を申し立てました。裁判官との面接では,この事件は単なる夫婦喧嘩以外の何物でもなく,警察が過剰反応した事案に過ぎないこと,殺人未遂という罪名に惑わされるべきではないこと,夫と妻が接触して証拠隠滅をはかる恐れは小さいこと,子供のためにも妻を一刻も早く釈放するべきであることを述べました。
準抗告は認容され,妻は釈放されました。

殺人未遂という重い罪名で,勾留決定が取り消され,釈放されるという事案は,珍しいといえます。しかし,初めてではありません。罪名は重くとも,実質的には勾留の必要がないことを,適切に判断する裁判官もいるということは,評価されるべきだと考えます。
何より問題なのが,刃物を持ち出したという理由だけで警察が過剰反応し,殺人未遂という罪名を掲げた上,検察官が事案の実態をしっかりと分析することなく,漫然と勾留を請求した点です。本来は軽微で,身柄拘束の必要のない事案についても,捜査機関は漫然と勾留を求めます。それを漫然と許可する裁判官が多いのも事実です。早期に情報を収集し,事案の実態を裁判官に理解してもらうのは,弁護人の重要な職務です。