弁護事件例

2016.06.17 【殺人】

第1審の裁判員裁判で有罪とされた殺人事件について,控訴審で心神喪失と認められ無罪判決が言い渡された事例

無罪
裁判員
原審破棄
証拠収集

事案の紹介

統合失調症等の精神障害のある被告人が,もともと被害妄想を抱いていたところ,家庭内のストレスを原因として,家族2名を殺害した事例。第1審(長野地裁松本支部)では,有罪判決が選択されたが,控訴審で新たに精神科医等の尋問を実施した上で,被告人は犯行当時心神喪失であったとして無罪となった事例

弁護活動

第1審の弁護人は,鑑定人の鑑定内容について特に争わず,有罪であることを前提として,量刑だけを問題にしました。第1審の判決は,鑑定人の意見どおり心神耗弱状態であったことを認め,有罪(懲役8年)の判決を下しています

なお,第1審は,別の弁護士が国選弁護人として担当し,控訴審では,私選で法律事務所シリウスの菅野と東京ディフェンダー法律事務所の山本弁護士が協同で担当した事件です。

控訴審では,まず鑑定書の内容に問題がないかどうかの検討を行いました。
第1審の鑑定は,被告人には,広汎性発達障害を基盤とした問題があり,それに加えて統合失調症が発生したことにより,事件が発生したという内容でした。

広汎性発達障害では,一般的には,コミュニケーションの障害等が中核症状として表れることになりますが,弁護人の調査では(弁護士法に基づく照会制度を使って小中高の指導要録等を取り寄せました。),被告人は,小学校・中学校では部活等を熱心にしており,豊かな人間関係が築けていたことが分かりました。また,被告人の部屋には,寄せ書きや文集などもあり,それらを見ても広汎性発達障害との診断には疑問が生じました。

さらに,3名の精神科医に意見をうかがったところ,弁護人の考えを裏付ける専門的な意見をいただくことができたので,2名の精神科医の意見書を裁判所に提出しました。

裁判所は,検察官の主張を支える第1審の鑑定人と弁護人の主張を裏付ける精神科医の合計2名の尋問を行いました。

本来控訴審は事後審であり,書面審査が原則なのですが,第1審では,弁護人が鑑定内容について問題提起していなかったので,ほぼゼロからやり直したような形になりました。

判決は,弁護人の控訴趣意(事実誤認)を認め,心神喪失により無罪と判断しました。
弁護人の主張したとおり,幼少期のエピソードから,広汎性発達障害が基盤にあるとの鑑定人の判断は不合理で説得的ではないとされています。

判決後,依頼者は,ただちに措置診察を受け,都内の病院に措置入院となりました。
裁判長からも言われたことですが「しっかり治療してくださいね。」との言葉を忘れずにいれるようフォローしていきたいと考えています。