弁護事件例

2016.06.17 【暴行・傷害】傷害致死

傷害致死が裁判員裁判で傷害罪と認定された事例

一部無罪
不起訴
裁判員
否認

事案の紹介

飲食店で暴れた被害者と店員らでケンカになり,客である被害者を死亡させてしまった。店員3名が傷害致死罪で逮捕され起訴され裁判員裁判となった

弁護活動

 本件の特徴は3名が同時に被害者に暴行を加えたというものではなく,時に2名であったり,場所を変えて別の一人が暴行を行ったりしたという事件でした。
 通常複数の人間が犯罪を起こしたときは,共謀が成立するとされ一部しか変わっていない場合でも犯罪全体について責任を問われることになります。
 しかし,現場で事件が突発的に起きたときで,その場で意思を通じ合ったと必ずしも言えないときには共謀が成立しないことがあります。そのときでも傷害罪については刑法に同時傷害の特例というものがあります(刑法207条)。これは2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において,どの暴行によって傷害を生じさせたか不明なときには全員が責任を負う,というものです。
 これが傷害罪だけでなく傷害致死罪にも適用されるか,適用されるとしてどのような場合に適用されるかが争われました。
 第1審の裁判員裁判では傷害致死の起訴に対して同時傷害の特例は適用されないとして傷害罪が認定されました。この判決に対して検察官が控訴をし,今度は控訴審は傷害致死罪が適用される可能性があるとして破棄して第1審に差し戻す判決をしました。これに対して上告をしその国選弁護人としてこの事件を担当しました。破棄差し戻し判決に対して上告した場合,上告が棄却されれば破棄判決が確定して第1審に差し戻されることになります。
 上告審では,同時傷害の特例を傷害致死に無限定に適用すべきではないとの主張をしましたが最高裁は「同時傷害の特例を定めた刑法207条は,共犯関係にない二人以上が暴行を加えた事案において,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち同一の機会に行われたものであることの証明をした場合,各行為者において,自己の関与した暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れない」と判決して上告を棄却しました。