保釈・釈放までの流れ
逮捕され身体を拘束されることは、その対象となった人の自由を奪う重大な処分です。優れた弁護人は、依頼人の逮捕勾留に伴う身体拘束が一刻も早く解消されるよう、あらゆる手段を尽くします。
ここでは、身体拘束をされるかどうかはどのような要素から判断されているのか(Point1)を解説し、刑事手続の流れの中でどのような釈放の手段があるかを解説します(Point2)。そして、釈放されやすい事件類型の一例をご紹介します(Point3)。
なお、刑事手続の流れについてはこちらをご覧ください。
point.1
身体拘束で考慮される
ポイント
(1) 証拠隠滅の可能性
罪を疑われた人を身体拘束する目的の一つに、証拠隠滅を防ぐという目的があります。逮捕したり勾留したりしなければ証拠隠滅をしてしまう疑いが大きい場合には、裁判官が身体拘束を認めます。
ア.証拠隠滅とは?
「証拠隠滅」というと、物的証拠を隠すことを思い浮かべるかもしれませんが、ここにいう「証拠隠滅」はそれに限られません。
たとえば、次のような行為も証拠隠滅にあたります。
- 被害者や目撃者に、自分に有利な話をしてもらうように働きかける
- 共犯者とされている人物と口裏合わせをする
- 自分に有利な証拠を偽造する
などです。つまり、「証拠」とは、人の話なども含めてかなり広い概念としてとらえられているのです。
イ.どんなことが考慮されるのか
証拠隠滅は上のように非常に広い概念です。次のようなことが考慮されたうえ、証拠隠滅の可能性があるかどうかを裁判官が判断します。
まず、共犯者とされる人物がいるかどうかが重要な要素のひとつになります。共犯者とされる人物がいる事件では、共犯者との間で口裏合わせなどをする可能性が高いとされ、証拠隠滅の可能性が高いと判断される傾向があります。
それから、被害者や目撃者などと接触する可能性があるかどうかもポイントになります。被害者や目撃者が知り合いだったり、接触する可能性が高い場合は、被害者や目撃者に働きかける可能性が高いとされ、証拠隠滅の可能性が高いと判断される傾向があります。
また、事件の重大性などもかかわってきます。特に重い処分が予想される重大事件では、証拠隠滅を行う動機が高いとされて、証拠隠滅の可能性が高いと判断される傾向があります。
ウ.証拠隠滅の可能性に反論するポイント
そこで、弁護人としてはこれらの罪証隠滅可能性について適切に反論し、裁判官を説得する活動が重要になります。
まず、事件の内容を見極めて、どのような証拠や関係者がいるかどうかを検討します。裁判官が想定する「証拠隠滅」がどんなものかを考えて、そのような証拠隠滅が考えられないことを主張して裁判官を説得すべきです。
主張だけではなく、証拠隠滅をしないことを示す何らかの資料を用いて説得することに努めるべきです。一例としては、関係者に接触しない、事件現場に近づかないことを被疑者本人が誓約する誓約書や、自宅で監督する旨の家族の上申書などが考えられるでしょう。
(2) 逃亡の可能性
罪を疑われた人を身体拘束する目的の一つに、逃亡を防ぐという目的があります。逮捕したり勾留したりしなければ逃亡してしまう疑いが大きい場合には、裁判官が身体拘束を認めます。
ア.どんなことが考慮されるのか
まず、住居や家族、仕事のなどの生活状況が考慮されます。
定まった住居を持ち、家庭や仕事がしっかりしている人に比べて、単身で特に仕事もしていない人などのほうが、身軽で逃亡の可能性が高いと判断されてしまいがちです。住所不定の人などは、住所不定であるというだけで勾留される理由になってしまいます。
また、事件の重大性も考慮されます。重い処罰が想定される重大な事件では、処罰を恐れて逃亡する可能性が高いと判断されてしまう傾向があります。
イ.逃亡の可能性に反論するポイント
このように、逃亡の可能性に関しては、事件の重大性のほか生活状況が重要になってきます。このような生活状況は、捜査機関側や裁判官側からはわからない事項も多いので、弁護人が積極的に資料とともに明らかにして裁判官を説得する必要があります。
一例をあげれば、家庭での生活状況について家族に陳述書を書いてもらったり、家族が身元を引き受ける旨の身元引受書、ご本人が仕事をきちんとしていることを示す資料(たとえば、名刺など)を弁護人が集めて裁判官に意見する活動が考えられます。
(3) 身体拘束解放の必要性
そのほか、身体拘束されたら困る事情があるかどうかということも当然考慮されます。
ア.どんなことが考慮されるのか
身体拘束されていることで不都合が生じるあらゆることが関係します。
たとえば、会社で本人しか扱えない仕事上の問題があることや、学校のテストが控えていることなどが典型的です。ほかにも、難病を患っていて身体拘束下では十分な医療を受けられない、心身の健康状態が身体拘束によって悪化している、などの健康上の事情も考慮されます。
イ.身体拘束解放の必要性を主張するポイント
身体拘束の不利益を証明する確かな資料を弁護人が入手して、裁判官を説得する活動が重要になります。たとえば、会社での予定を書き込んだ手帳や予定表、学校のテストの予定などがわかる日程表、心身の不調を表す診断書などが考えられます。また、協力が得られれば、家族の陳述書や勤務先の関係者の陳述書などを作成し、身体拘束が継続することによる不利益を具体的に話してもらうことも有効です。
point.2
どんな釈放の手段があるか
ここでは、身体拘束を解放するためにどんな手段があるのかをご紹介します。
(1) 逮捕直後
まず、逮捕されてすぐの段階では、これに引き続く勾留を阻止するのが最も重要な活動になります。
上述の資料などを入手し、これを添付した弁護人の意見書を作成するなどして、勾留請求をしないように検察官を説得、勾留決定をしないように裁判官を説得するべきです。
これがうまくいけば、逮捕後2,3日で釈放されることができます。
(2) 勾留から起訴まで
勾留決定が出てしまった後でも、勾留決定に対して不服申し立てをすることができます。不服申し立てが成功すれば、基本的にその時点で釈放されることができます。
勾留が続いてしまう場合には、できるだけ短い勾留期間で済むような弁護人の活動が求められます。たとえば、被害者と早期に示談交渉をすることなどが典型的な活動として考えられます。
勾留は原則10日間ですが、さらに最大10日間の延長がなされることがあります。この延長の決定に対しても不服申し立てを行うことが可能です。
この段階での弁護人の活動の結果、勾留後に起訴されず(不起訴処分または処分保留)、釈放されることがあります。この場合には、勾留の満期に釈放されることとなります。
(3) 起訴後
起訴された後は、主に「保釈」という方法での身体拘束解放を目指すこととなります。保釈とは、一定のお金を裁判所に納めることで、裁判の判決まで身体拘束を解放するという制度です。
裁判所に納めるお金のことを保釈保証金といいますが、それなりに高額であり、通常の事件で100~300万円程度、重大事件や特殊な事件だとそれ以上になることもあります。
また、一定の重大事件や、証拠隠滅の可能性が高いと判断される事件ではそもそも保釈が認められないことも多く、お金を払えば解放される制度とは異なることに注意が必要です。
保釈の請求においても、弁護人が、保釈されなければ困る事情などを資料とともに裁判所に対して明らかにして、保釈を認めるよう説得する活動が重要になります。
(4) 共通
そのほか、勾留後に取り得る手段として、勾留取消し、勾留執行停止の制度があります。
勾留取消しは、勾留の時には勾留の要件があったものの、その後に事情が変わって勾留する必要がなくなった時に利用されます。典型的には、被害者との間で示談が成立したなどの事情変化です。
勾留執行停止は、冠婚葬祭への出席などを理由に、一時的に勾留から解放される制度です。典型的には、家族の危篤や葬式などです。数時間~1日単位で勾留が解かれますが、その間は弁護人が付き添ったり、指定の場所に滞在していなければいけないこともあります。
point.3
釈放されやすい事件の一例
ここでは、釈放されやすいと思われる事件の一例を紹介します。なお、ここであげたのは架空の事例の一例と傾向です。具体的な事例のご相談は、直接弁護士に法律相談をされることをお勧めします。
(1) 電車内での痴漢事件(逮捕直後の釈放)
電車内での痴漢事件は、刑事事件としてそれほど重い部類の事件ではありません。また、疑われた人と被害者とされた人とは面識がない場合が多く、被害者に対する働きかけなどが想定される事件ではありませんので証拠隠滅の可能性が高い部類の事件ではありません。生活状況がしっかりしているなど、逃亡の可能性が低いと判断されれば、比較的早期に釈放される可能性が高い事件です。
https://www.keijibengoleaders.net/instance/901/
(2) 暴行・傷害罪
暴行傷害事件といってもいろいろな類型がありますが、早期の釈放が見込まれる事例もあります。たとえば、酔っぱらって見ず知らずの人と喧嘩して逮捕されてしまったような事例では、証拠隠滅などが考えにくく、早期の釈放が見込めます。また、同居している人などに暴力をふるってしまい警察沙汰になってしまったが、暴力を受けた人も処罰まで望んでいないようなケースも、早期釈放が期待できます。
https://www.keijibengoleaders.net/instance/921/
(3) 親告罪(不起訴による釈放)
強姦罪、強制わいせつ罪などの親告罪(2017年5月現在)については、その罪名によっては逮捕勾留を免れにくい事件も多いですが、弁護人を通じて被害者と示談をし、告訴の取り下げに至れば、不起訴処分と同時に釈放されるのが通常です。こうした親告罪の事件では、できる限り早く被害者との交渉を行うことが早期釈放のために重要になります。
https://www.keijibengoleaders.net/instance/938/
(4) 薬物事件(保釈)
覚せい剤取締法違反事件などの薬物事件は、事件発生直後は証拠隠滅の可能性や逃亡の可能性が高いと認められる場合が多く、逮捕されたあと勾留されてしまうことが多い部類の事件です。しかし、起訴された後は、裁判に必要な証拠は客観的な証拠(たとえば尿からの覚せい剤成分の検出結果など)が多いため、証拠隠滅の可能性が大きくなく、保釈により釈放される事例が多い部類の事件です。